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朴槿恵政権退陣 ろうそく革命の経過
2016年10月24日、朴槿恵は突然国会で改憲を発表する。しかしその日の夕方JTBCで秘線実力者(影の実力者)崔順実の国政私物化が報道される。これに対し朴槿恵は、10月25日の第1次対国民談話の発表に始まり、何回も謝罪と釈明をするが、国政私物化と国憲びん乱(憲法又は法律に定める手続によらずして、憲法又は法律の機能を消滅させること)で彩られた朴槿恵ゲートはますますあらわになった。
10月29日、3万人余りの労働者市民が光化門に進出した。歴史的なろうそく革命が始まった。労働党は、10月31日から党代表が朴槿恵の「退陣と逮捕」を強く求めるハンスト闘争に突入した。毎週開かれる土曜日のろうそく集会に市民の参加数が回を重ねる度に数倍になるほどに増えていった。11月5日20万人、11月12日100万人、11月26日190万人が参加した。国会は崔順実ゲート特別検事法を通過させ、朴槿恵は自身を調査する特別検事を任命した。その後、朴槿恵、崔順実をはじめとする核心人物20人余りが逮捕・収監された。
12月3日、232万人が参加するなかで現場のスローガンは朴槿恵「下野」から「退陣」へと発展した。6回のろうそく集会に延べ640万人が参加し、スローガンはますます急進的に変化・発展した。いよいよ12月9日、「(朴槿恵の)秩序正しい第二線への後退」を主張していた国会が、朴槿恵の弾劾を圧倒的に発議した。政府与党だったセヌリ党議員さえ、半数もの人々が弾劾に賛成した。国民が国会解散まで要求するかも知れないという憂慮のためだった。
この時から朴槿恵の大統領職務は停止し、ファン・ギョアン総理が大統領権限代行を引き受けた。憲法裁判所は、朴槿恵の弾劾審理に着手した。市民はこれ以降、正月の連休を除いて毎週土曜日ごとに、13回のろうそく集会をさらに継続した。4ヵ月を越える闘争だった。延べ人数1600万人を越えた。そしてついに3月10日、憲法裁判所は朴槿恵を罷免した。3月11日の土曜日、朴槿恵退陣と罷免が達成された第20回ろうそく集会で勝利を祝った。
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労働者の立場から見たろうそく革命の評価
朴槿恵政権は、新自由主義の李明博政権の政策を継承しながらも、より一層権威主義的で独断的な政策を展開してきた。財閥と結託して労働柔軟化政策を強制した。貧富格差は拡大し、家計負債は増加した。2015年に民衆総決起に立ち上がった労働者・民衆を暴力的に鎮圧した。農民が警察の放水銃を受けて亡くなり、民主労総委員長は(民衆総決起を組織したかどで)逮捕された。
自身の父親である朴正煕の親日と軍事独裁の歴史を消し去り、歪曲するために、国定歴史教科書を強行した。同時に、韓米日3角軍事同盟とミサイル防衛(MD)体制を構築するためのアメリカの戦略と圧力に順応して、日本軍「慰安婦」問題と日韓軍事情報保護協定、そしてサード配備まで強行した。労働者・農民の闘争が続いたが、かつてのような闘争の動力は作り出せなかった。むしろ権力内部で亀裂が起きた。政府与党であるセヌリ党内部が、朴槿恵支持と反対とに分かれて争う中で、2016年総選挙で敗北し、権力の秘線実力者(影の実力者)内部で不正と腐敗が暴露されると同時に、2016年ろうそく抗争が起こる導火線となった。ろうそく集会初期には、秘線実力者(影の実力者)によって大統領がもてあそばれた国政私物化に対する怒りが大きかった。『これが国か、恥ずかしくて我慢できない!』というスローガンがこれを物語っている。
しかし、ろうそく集会が進むにつれて、ますます参加者のスローガンは構造的な要求へと発展した。朴槿恵とその共犯の逮捕、財閥総帥の逮捕、検察改革、セヌリ党解体を要求した。サード配備反対、原子力発電所の閉鎖、4大河川事業の調査、ハン・サンギュン民主労総委員長の釈放、成果年俸制の反対など、多様な要求があふれ出た。
朴槿恵政権を退陣させたろうそく革命の特徴は次のとおりだ。第一に、参加者数が歴代最大規模である延べ1600万人を超えたことだ。20回余りおこなわれたとして、毎回平均80万人に達し、最も多く参加したときは230万人以上だった。第二に、夜間に行われたろうそく集会とデモだったが、平和デモとして進められ、青瓦台(大統領府)の前までデモ隊が接近したことも初めてのことだった。第三に、民衆の自発的な参加の中で、韓国社会の構造的な問題を議論する大衆直接民主主義の広場になったことである。第四に、民衆の力で政権を退陣させたことである。
一方で、その限界は明らかだ。第一に、ろうそく革命の主体である民衆が勢力交替の中心に立てなかったし、相変らず議会主義と代理主義の保守政治勢力による政権交替に留まった。第二に、労働組合と労働者の隊列がゼネスト等によって闘争の中心に立つことができなかった。第三に、結局のところ財閥中心の韓国資本主義体制を根本的に変革できないまま、権威主義政権から自由主義改革勢力へと政権が交替させられるに留まった。第四に、文在寅政府の積弊清算の試みが当分のあいだ国民的支持を得るなかで、構造的矛盾を克服しようとする労働者・民衆の闘争は、もうしばらく困難な条件に陥る見通しだ。
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文在寅政権に対する労働者の立場・評価・要求
朴槿恵ゲートが大問題になる前まででも、野党だった民主党は朴槿恵のセヌリ党より支持率が低く、20%台に過ぎなかった。同時に、与野党で大統領選候補として議論された人物の中でも、文在寅は1位を守ることもできなかった。しかし朴槿恵弾劾でセヌリ党が分裂し、朴槿恵の罷免と逮捕以降、早期の大統領選挙が可視化されるなかで、民主党と文在寅の支持が急上昇した。民主党から分離した国民の党のアン・チョルス候補が文在寅を追撃しはしたが力不足だった。
結局5月9日、早期の大統領選挙で文在寅候補が大統領に当選した。今、民主党の支持率は50%を越えており、セヌリ党が分党した自由韓国党と正しい政党はそれぞれ10%にも達していない。このような状況で、1ヵ月少しの短期間の間に、前任の朴槿恵と比較される文在寅大統領の破格の歩みによって国民的支持は80%を越えている。
しかし政権引継ぎ委員会の過程なしで大統領職を遂行しつつ総理や長官を任命する過程で困難にぶつかっている。文在寅大統領は、長官級人事において5大排除原則 (兵役逃れ、不動産投機、脱税、偽装転入、論文盗用) をはっきりと明らかにしたが、韓国の高官たちの顔ぶれがかつての政権の人々と別段違いがないということがあらわになった。開始時点から原則を守ることができなくなった。
文在寅大統領は、盧武鉉大統領と共に労働人権弁護士として活動したことがある。今回の大統領選挙で、民主労総が進歩政党候補を支持する方針を定めたにもかかわらず、現場の多くの前・現職幹部が文在寅候補を公開支持した。文在寅大統領は、81万個の雇用という公約を守るために、政策第1号である大統領直属「雇用委員会」を作って大統領自ら委員長を引き受けた。そして最初に訪ねて行った現場が仁川空港なのだが、全体職員の90%、1万人に達している非正規職労働者を正規職化すると約束した。
公共部門から先に非正規職を正規職化して私企業へと拡大するという戦略だ。これに対して経済団体は反発している。ところで公共部門の非正規職労働者の正規職化の内容はどうか。仁川空港の場合、派遣会社の代わりに子会社を作って労働者を「無期契約職」(中規職)として採用するということなので正規職化とは距離があるものだ。
一方、「雇用委員会」は30人の委員で構成されているのに労働界代表は3人だけだ。民主労総は1999年2月に労使政委員会を脱退してから18年ぶりに、労使政の政府機構に参加することを決めた。政府は、警察、消防署員など公務員数を増やし、公共部門の非正規職労働者を正規職化するために、国会に11兆2千億ウォンの追加補正予算を要請したが、この程度の予算ではとうてい足りない。
50%を越える非正規職労働者、男女の賃金格差、正規-非正規労働者間の賃金格差、世界最長の労働時間、世界最高の労災発生率、高い家計負債額などを解決する画期的な計画が提示されていない状態である。民主労総は、朴槿恵体制の清算(反逆者の処罰)、最低賃金時給1万ウォン、労政直接交渉、労使産別交渉の法制化、非正規職の撤廃、財閥体制の解体、社会公共性の強化、労組活動の権利と労働法全面改正などを要求している。6月30日には「社会的ゼネスト」を予定している。
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日韓軍事情報包括保護協定、サード配備、韓米日軍事同盟
アメリカを中心に、韓米日3角軍事同盟とミサイル防衛(MD)体制構築のためのプログラムが進められてきた。東アジアにおいて、沖縄の辺野古新基地建設、岩国米軍基地の強化、韓国の済州海軍基地の建設、平澤米軍基地の拡張を進め、軍事力増強、攻撃的軍事演習を強化してきた。日本軍「慰安婦」問題の拙速合意、日韓軍事情報包括保護協定の締結、星州サード配備など一連の過程を通じて韓米日軍事同盟とMD体系を強化している。これに対抗して、中国、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国の軍事力が増大するなかで、東アジア地域の軍事的緊張が高まっている。
2016年11月22日、大統領や国務総理でもない経済副首相が主宰する閣僚会議で日韓軍事情報包括保護協定が強行処理された。当時、朴槿恵は、ろうそく抗争によって国民の95%が反対して弾劾直前の状態であり、ファン・ギョアン国務総理は南米を歴訪中だった。次の日、国防部でハン・ミング国防部長官と長嶺安政駐韓日本大使が署名し、相手国に通知して正式発効された。
「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA:General Security of Military Information Agreement)」は、両国間の軍事情報の保安分類と軍事秘密情報保護・表示の原則、情報接近資格、情報伝達・保管・破棄・複製・翻訳方法、紛失・き損時の対策などを定めた軍事情報交流・協力だ。それまでは2014年12月に締結された「韓・米・日軍事情報共有約定」により、アメリカを通じて北朝鮮の軍事情報を交換してきたが、日韓軍事情報包括保護協定によって韓・米・日の間の軍事情報がリアルタイムで共有されることになった。
韓国は、2016年11月現在で31ヵ国と軍事情報保護協定を締結している。多くの場合は「軍事協力」の次元だが、日韓軍事情報包括保護協定の場合は、韓米日MD体制に編入されるのにともない韓米日3角軍事同盟に発展する前段階だということができる。安倍が戦争法を成立させることでその可能性が開かれているのだが、朝鮮半島での戦争勃発時に日本の自衛隊が朝鮮半島に進出できる条件を強化していく措置だといえる。
2017年4月26日未明、米軍は星州のソソン里にサード発射台2基を強行配備した。反対する100人余りの住民たちを8千人以上の警察が暴力的に排除する中で、米軍サード発射台は村を通過して配備地域に移動した。大統領選挙が13日後に迫った時点だった。3月10日に罷免された朴槿恵の手下である国務総理のファン・ギョアン、安保室長キム・グァンジン、国防部長官のハン・ミングは主権国家の権利を放棄したままアメリカの圧力に屈服した。駐韓米軍地位協定(SOFA)の中の「韓国の環境法令および基準を尊重する」という合意も無視した。環境部は、環境影響評価法に基づくサード配備関連工事への「中止命令権」を発動しなかった。
このような背景には、1954年11月に発効された「韓米相互防衛条約」が存在する。同条約第4条は、「相互的合意」にもかかわらず、「アメリカの陸海空軍を韓国の領土内とその付近に配備する権利を、韓国はこれを許与し、アメリカはこれを受諾する」という不平等条約である。韓国憲法第74条①項は、「大統領は憲法と法律の定めによって国軍を統帥する」と規定しているが、1950年7月15日から米軍が戦時作戦統制権を有している状態において軍事主権は制約されるほかはない境遇である。2006年に盧武鉉-ジョージ・ブッシュが、2012年4月に戦時作戦統制権を韓国に委譲することにしたが、李明博が2015年12月へと延期し、2014年4月に朴槿恵-オバマは、『返還時期と条件の再検討』を決め、2014年10月23日、韓・米両国間の年次安保協議会(SCM)で戦時作戦統制権を特定の時限を決めずに「条件」に基づいて韓国に移譲することで合意したが、移譲する条件はますます悪化している。
ろうそく革命で朴槿恵が罷免・逮捕された後、5月9日に大統領選挙が実施された。この大統領選挙において当選した文在寅政府は、サード配備問題に対して明確な立場を発表していない。候補時代から民主党と共に「戦略的曖昧さ」で一貫してきた。韓国憲法60条1項には「国会は安全保障に関する事項や主権制約に関する条約などの締結・批准に対する同意権」(を有すること)を規定している。野党時代には国会同意を強調していたが、与党になった後では未だ積極的な立場を表明していない。大統領に当選した後では、手続き問題を質し、環境影響評価を新しく行なうという立場に留まっている。トランプは韓国にサードの費用10億ドルを請求している状態だ。文在寅政府は、韓米首脳会談を目前にした状態で、不法に配備されたサードに対して撤去措置を下さないでいる。
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朝鮮半島での軍事的緊張の高まりと日韓民衆の平和のための闘争
平和のために軍隊と武器を増強し、軍事訓練を強化するということは真っ赤な嘘である。人類史上で経験した数多くの戦争は殺傷と破壊だけだった。今後起こる世界戦争は、人類が今まで経験したことがない大きな災厄を招くだろう。したがって戦争に反対して平和を定着させるために闘争しなければならない。
朝鮮半島をめぐる軍事的緊張が高まっている。この間、アメリカのMD体制の一環として行われた韓国星州へのサード配備は、中国が韓国に貿易での報復を加えるという様相を帯びたが、本質的には東アジア地域の軍事兵器の増強と軍事的緊張を招いた。東アジア地域の新しい冷戦秩序は、戦争の可能性を高めるだけでなく、労働者・民衆の人生を破綻へと追いやるだろう。
日韓の労働者民衆は、このかん帝国主義と新自由主義に反対する連帯闘争を進めてきた。日本民衆は沖縄や岩国の米軍基地拡張反対闘争とともに、韓国の平澤米軍基地拡張、ムゴン里射撃訓練場、済州海軍基地反対闘争を通じて国際連帯を進めてきた。今や、日本の京丹後Xバンドレーダー反対闘争と韓国の星州サード配備反対闘争もともに連帯して闘われている。新自由主義に対抗する労働者民衆の連帯闘争も、よりいっそう熱意をもって進めていかなければならない。