韓国「徴用工」裁判判決~請求権を支持するための学習資料
韓国大法院が元「徴用工」の請求権を日本企業に求める判決を出しました。日本政府・日本企業は、かつての朝鮮植民地支配のもとで、一切の侵略と略奪・強制労働・戦時性奴隷など強盗的人道的等の許しがたい犯罪行為への謝罪と賠償、それらの歴史教育、責任者の処罰などを当然にも果たさなければなりません。にもかかわらず、安倍政権は朝鮮・アジアへの侵略と植民地支配を正当化し、居直っています。そこには、現代日本帝国主義のアジア・世界への経済支配強化と政治軍事支配の本格化が狙われているからです。
だからこそ、韓国や朝鮮民主主義人民共和国、中国と台湾、フィリピン、インドネシアなど、かつての日帝・天皇制権力と独占資本の侵略と植民地支配の被害を受けたアジア太平洋地域のすべての人民の財産権・請求権・生存権・自己決定権を支持し、謝罪・賠償が実施されるよう、日本人民は排外主義と日米軍事同盟・自衛隊派兵に反対しながら、日本政府・日本企業などに求めていかなくてはなりません。
日本政府・資本のアジア再侵略・自衛隊派兵・9条改憲を許さず、韓国「徴用工」の請求権を断固支持していきましょう。学習資料を掲載します。
徴用工裁判についての学習・討議資料
アジア共同行動〈AWC〉日本連絡会議
去る10月31日、韓国大法院(最高裁)は、被告である新日鉄住金の上告をすべて棄却し、元徴用工の原告(3人死亡・1人が生存)に対して1人1億ウォン(約1000万円)の損害賠償金の支払いを命じたソウル高裁判決が確定した。
日本政府・安倍政権はこれに猛然と反発し、①原告は「徴用工」ではなく、住金の募集に自主的に応じて来日したのであり、「朝鮮半島出身の労働者」と表現すべきであること。②個人の請求権もまた、1965年の日韓基本条約および日韓請求権協定によって最終的に完全に解決され、すでに放棄・消滅していること。③韓国大法院判決は、このすでに解決済みの問題を蒸し返し、日韓の国家間合意を破壊するもので、国際法に違反するものだと主張してきた。自民党・公明党の国政与党だけではなく、日本の国政野党の多くやマスコミのほとんどがこれに同調してきたことによって、①②③の政府の主張が多くの民衆のなかに浸透し、とりわけネット世界ではすさまじい韓国に対する排外主義的反発やバッシングが吹き荒れている。安倍政権は、このような大法院判決への非難にもとづき、三権分立の原則をも無視して韓国政府にこの判決を是正するように要求している。
この学習・討議資料は、これらの政府の主張に反論を行い、問題の根幹は日本政府がかつての朝鮮植民地支配が不法なものであったことを認めず、植民地支配への国家としての謝罪と犠牲者への賠償を行ってこなかったことにあることを明確にし、徴用工問題の根本的解決のためには日本政府の国家としての朝鮮植民地支配への謝罪と賠償がなされねばならないことを提起するものである。
【1】原告の朝鮮人労働者は植民地支配のもとでの侵略戦争への総動員の犠牲者
①日清・日露戦争に勝利した日本帝国主義は、1905年の第二次日韓協約で当時の大韓帝国の外交権を奪い、1907年の第三次日韓協約で韓国の内政も日本の管轄下に置き、韓国軍を解散させた。これらの基礎の上に、1910年の「韓国併合条約」によって朝鮮半島は日本の植民地支配下に置かれた。この「韓国併合」は日本が軍事力による恫喝によって強制したもので、国家間の条約の形をとっていたとしてもまったく不法・違法なものであった。日本は朝鮮人に創氏改名、日本語の使用、天皇への崇拝・忠誠を強制し、土地調査事業と称して朝鮮人の土地を奪い去った。そして、中国への侵略戦争・アジア太平洋戦争が拡大し、軍需関連産業の労働力不足が深刻化するなかで、日本は朝鮮植民地支配を基礎に、朝鮮人労働者の侵略戦争への動員を推進していった。また、日本の朝鮮総督府は、1919年の3・1独立運動の武力鎮圧をはじめとして、朝鮮の民衆の抵抗運動・解放運動を徹底して残虐に弾圧した。
②朝鮮人労働者の動員には、形式上は「募集」、「斡旋」、「徴用」の三種類があった。日本政府は大法院判決以降、徴用工裁判の原告は自主的に募集に応じて来日したのだから「徴用工」ではなく、「元朝鮮半島出身の労働者」と言うべきだとする主張を強めてきた。しかし、「募集」であれ「斡旋」であれ「徴用」であれ、その実態はいずれも強制的なすさまじい奴隷労働であって、いずれの形で動員された労働者であろうと「徴用工」と呼ぶべきものであった。大法院判決が認定した生存している原告をめぐる事実関係では、原告の朝鮮人労働者は賃金のほとんどを本人の同意なしに原告名義の口座に保管され、通帳と印鑑を舎監が管理することによって原告は賃金を受け取ることができなかった。感電死する危険があるなかで溶鉱炉にコークスを投入するなどの過酷で危険な労働を強いられた。提供される食事も粗末なものであった。日常的な監視下に置かれ、外出も月に一・二度しか許されず、逃亡を企てれば殴打されるなどの残酷な制裁が加えられた。そして、1944年の国民徴用令の朝鮮への適用以降は、賃金はまったく支払われなくなった。
③徴用工問題は、植民地支配と侵略戦争に結合した深刻な人権問題である。人権を侵害された被告が、その謝罪と慰謝料などの賠償を直接の当事者である新日鉄住金に請求することは誰にも否定できない当然の権利である。同時にこれらの朝鮮人労働者の強制労働は、1938年の侵略戦争への国家総動員法の制定や国民徴用令という国策にもとづくものであった。国策にもとづくものである以上、日本政府にはこれらの徴用工に国家として謝罪し、賠償を行うべき責任が厳として存在している。日本政府が「徴用工」という表現を否定するのは、強制性を否定することで新日鉄住金の賠償責任を減免するだけではなく、何よりもこの日本の国家としての責任を否定することが目的なのである。
【2】朝鮮植民地支配への日本政府の謝罪と賠償は未解決の問題
①日韓両国は1965年に日韓基本条約とその付属協定である日韓請求権協定を締結し、国交を正常化した。そして日本は、3億ドルの無償経済協力、2億ドルの有償経済協力(長期低利の借款)を韓国に供与することを確認した。日本政府は、この日韓基本条約と請求権協定によって、韓国およびその国民の日本に対する請求権は、徴用工などの個人の請求権をも含めて「完全かつ最終的に解決された」と主張している。その根拠とされているのは、以下の日韓請求権協定第二条1項である。これによって、韓国およびその国民は日本に対する請求権をすべて放棄したと言うのだ。
【日韓請求権協定第二条1項】
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。(以下略)
②請求権の問題に立ち入る前に、この日韓基本条約・請求権協定が以下のような誤りと限界を持つものであったことを明確にしておかねばならない。
(1)日韓基本条約は朝鮮民主主義人民共和国の存在をまったく無視し、韓国を「朝鮮半島に存在する唯一の合法的政府」と規定するという虚構にもとづくものであった。それは朝鮮半島南北の分断を固定化し、日本政府の朝鮮敵視政策を基礎づけるものであった。
(2)日韓基本条約・請求権協定では、かつての植民地支配に対する日本政府の謝罪がまったく表明されていない。それは、「韓国併合条約」が不法なものであり、そもそも無効だという韓国の主張を日本政府が拒否し、合法で有効なものであったと主張した結果であった。日韓両国はこの対立を解決できず、日韓基本条約では「韓国併合条約」などは1948年の韓国の建国によって「すでに無効になった」というどうとでも解釈できる表現とされた。この日本政府の立場は、朝鮮植民地支配を正当化するさまざまな歴史修正主義者の排外主義的論説の温床となってきた。
(3)この結果、請求権協定では日本の植民地支配に対する賠償ではなく、「経済協力」方式が採用された。賠償と経済協力はまったく異なる。賠償とは、不法・違法な行為によって与えた損害を弁償し、慰謝するものである。日本政府は、植民地支配が不法なものではなかったので、賠償の義務はないという立場に立ちつづけた。そして、無償3億ドル・有償2億ドルの経済協力についても請求権協定では何の名目(理由)も付けられておらず、日本政府は植民地支配による損害への対価、すなわち賠償にかわるものではないと説明してきた。
【1965年の椎名悦三郎外相答弁】
「請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで有償・無償5億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます。」(第50回国会参議院本会議1965年11月19日)
③こうして日韓基本条約・請求権協定では、日本の朝鮮植民地支配が合法・有効なものであったのか、それとも不法・無効なものであったのかという根本的な歴史認識における日韓両国の対立が未解決の問題として残された。日本政府は、このような日韓国交正常化の過程で、朝鮮植民地支配が不法なものであったという認識にもとづく公式の謝罪も賠償も実施しなかったのである。
④このような日韓基本条約・請求権協定の締結には、アメリカによるベトナム侵略戦争が拡大し、ソ連・中国との対立が先鋭化するなかで、米日韓軍事同盟を形成するというアメリカの意向が大きく働いた。当時の韓国は、朴正煕(パク・チョンヒ)軍事独裁政権の支配下にあった。朴政権は、当時の韓国の国家予算が約3.5億ドル程度であった時期に、日本からの5億ドルの経済協力をインフラ整備・工業化など韓国資本主義の発展の原資にしようとした。他方で、日本は韓国への経済協力を東アジア・東南アジア諸国への新たな侵出、すなわち貿易と投資の拡大のステップにしようとした。これらの日韓両国の国益調整・外交的妥協の結果、日韓基本条約・請求権協定は歴史認識における対立と未解決な問題を残したままで締結された。
⑤現在の段階での問題の焦点は、朝鮮植民地支配によって与えた損害に対する韓国およびその国民の損害賠償請求権が日韓請求権協定によって放棄され、消滅したのかどうかということにある。徴用工裁判の大法院判決は、放棄・消滅していないと明確に示した。その主理由にあたる部分を抜粋しておく。
(大法院判決文から抜粋)
まず、この事件で問題となる原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)という点を明確にしておかなければならない。原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。
請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための取り決めではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係(筆者注・未払い賃金や敗戦時に朝鮮半島で日本政府や企業が保有していた資産の処分など)を政治的合意によって解決するためのものであったと考えられる。
請求権協定の交渉過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を徹底的に否認し、これに伴い韓日両国の政府は日帝の韓半島支配の性格に関して合意に至ることができなかった。このような状況で強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたと見るのは難しい。
請求権協定の一方の当事者である日本政府が不法行為の存在およびそれに対する賠償責任の存在を否認する状況で、被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む請求権協定を締結したとは考えられないためである。
⑥要するに、日本政府は日韓基本条約・請求権協定の締結にあたって、朝鮮植民地支配が不法なものであったことを認めず、植民地支配による損害の賠償を要求する請求権の存在を否定した。それゆえ、韓国政府および国民の植民地支配による損害への請求権は、そもそも日韓両国間の協議の対象にはならず、両国が合意した請求権協定の対象に含まれていない未解決の問題である。日韓請求権協定の締結によっても、植民地支配による損害についての韓国政府の外交的保護権(自国民が外国の領域において外国の国際法違反により受けた損害について、国が相手国の責任を追及する国際法上の権利)や個人請求権は放棄されていない。元徴用工の被告の新日鉄住金に対する請求も未解決なものであり、被告への請求は正当なものだというものであった。この大法院判決は、日本の朝鮮植民地支配に対する告発・批判にもとづき、植民地支配による損害に対する韓国およびその国民の請求権を判示する画期的な判決であった。
【3】個人請求権もまた請求権協定で放棄・消滅していない
①請求権を行使する主体には、国家および個人(法人を含む)の双方がある。徴用工裁判の原告は、徴用工とされた個人であり、国際法上は個人請求権にもとづく訴訟であった。日本政府は、1965年の日韓基本条約・請求権協定の締結時から1990年代に至るまで、1991年の柳井外務省条約局長(当時)の国会答弁に示されるように、日韓請求権協定によって韓国の外交的保護権は放棄されたが、被害者個人の請求権までが放棄・消滅したのではないという立場に立ってきた。1965年に日韓請求権協定に対応する日本の国内法として制定された「大韓民国等の財産権に関する措置法」(財産権措置法)についても、柳井局長は消滅した韓国および韓国民の「財産、権利及び利益」の中に「いわゆる慰謝料請求権というものが入っていたとは記憶しておりません」と答弁している。すなわち慰謝料請求権など個人の請求権は、日韓請求権協定で放棄・消滅したわけではないということである。
②この日本政府の旧来の立場によったとしても、韓国人被害者が韓国の外交的保護を受けられないにせよ、日韓請求権協定は被害者個人が裁判を提訴することや個人請求権に対応した自発的な、任意の措置を日本政府や加害企業が被害者の救済のためにとることを妨げるものではないことになる。例えば案件は異なるが、西松建設の中国人強制連行に関する戦後補償裁判において、裁判そのものは最高裁において原告の中国人強制連行被害者の敗訴となった。しかし、西松建設は最高裁の勧告にもとづいて2009年に原告側との和解に応じ、解決のための基金を設け、強制連行被害者への補償を実施した。また、同じく中国人強制連行をめぐる三菱マテリアルを被告とした訴訟でも、三菱は2016年に和解に応じて64億円の和解基金を設け、強制連行被害者への補償を行った。これらは個人請求権の存在を前提としたものであった。それが前提になければ、西松建設や三菱マテリアルの経営者は、理由のない金を出費することで会社に損害を与えたという背任罪で株主から告訴される危険性があったからである。個人の請求権は放棄・消滅していないというこの点では、日韓両国政府および最高裁・大法院の立場はこの時期まで一致していた。
【柳井俊二外務省条約局長(当時)の1991年8月27日の参議院予算委員会での答弁】
「日韓請求権・経済協力協定の二条一項におきましては日韓両国および両国国民間の財産請求権の問題が完全かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても確認しているわけでございます。これらの規定は両国の財産・請求権問題につきましては、日韓両国が国家として有する外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないことは今までご答弁申し上げたとおりでございます(後略)。」
【柳井俊二外務省条約局長(当時)の1992年2月26日の衆議院外務委員会での答弁】
「個人のいわゆる請求権というものをどのように処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求権を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げることは、外交保護権を放棄しておりますから、それはできない。こういうことでございます。」
③しかし、安倍政権は2000年代以降に、日韓請求権協定によって韓国の外交的保護権だけではなく、個人の請求権も放棄・消滅したと政治的に主張するに至った。それは日韓基本条約・請求権協定の締結時から1990年代に至る政府の答弁とまったく矛盾するものであり、日韓両国政府が前提としてきた請求権協定の解釈を一方的にくつがえすものであった。このような安倍政権の主張が定着すれば、徴用工など強制連行の被害者や「慰安婦」とされた日本軍性奴隷制度の被害女性は、韓国の外交的保護を受けられず、裁判を提訴する訴求件もうばわれ、裁判の場以外での人道的な救済措置を受けることも不可能になる。それらはまさに、植民地支配や侵略戦争の犠牲者を問答無用とばかりに切り捨てるものであった。このような日本政府の主張は絶対に許すことはできない。
④安倍政権の大法院判決への非難が、柳井答弁などこれまでの政府の立場と矛盾することが国会において追及されるなかで(2018年11月14日の衆議院外務委員会での穀田共産党議員の質問)、河野太郎外相は「(請求権協定によって)個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と答弁、さらに外務省の三上国際法局長もまた「柳井局長の答弁を否定するつもりはまったくない」「権利自体は消滅していない」と答弁せざるをえなかった。それは安倍政権による大法院判決への非難がいかにでたらめなものであり、これまでの国会答弁と矛盾するものであるのかを示すものであった。
【4】日本政府は植民地支配と侵略戦争の謝罪と賠償を実施せよ
①安倍政権は、この徴用工裁判の大法院判決に対して、すでに日韓基本条約・請求権協定によって解決済みの問題を蒸し返し、国家間の合意を破壊するもので、国際法に違反するものだと口をきわめて非難してきた。しかし、すでに明らかにしてきたように、日本の朝鮮植民地支配が韓国とその国民に与えた損害の謝罪と賠償は、日韓基本条約・請求権協定では未解決の問題として残されてきたのである。大法院判決は、未解決の問題を未解決の問題として提起したのであり、解決済みの問題を蒸し返すものではなく、国家間の合意を破壊するものでもない。まして個人請求権については、日本政府の請求権協定に関する解釈においてすら放棄・消滅していないとしてきたにもかかわらず、この政府の旧来の立場を一方的にくつがえし、個人請求権もまた「請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだ」と主張することこそ、日韓両国の共通の前提となってきた認識を破壊する暴論だと言わねばならない。
②日本の敗戦、朝鮮の植民地支配からの解放から73年が過ぎた。にもかかわらず、強制連行の被害者や元日本軍性奴隷制度の被害者など植民地支配と侵略戦争の犠牲者が要求する謝罪と賠償の問題が解決されてこなかった根本的な責任は日本政府の側にある。日本政府が歴史の真実を歪曲し、朝鮮植民地支配が不法なものであったことを認めず、その国家としての謝罪と賠償を拒否してきたこと。そして、侵略戦争や植民地支配についての責任を回避し、居直り続けてきたことこそが根本的な問題なのである。このような日本政府の態度が事態を複雑にし、問題の解決を長期化させてきたのだ。
③徴用工問題の大法院判決を受けて、日本政府がなすべきことは何なのか。
それは第一に、大法院判決への不当な非難をただちに中止し、朝鮮植民地支配の不法性を認め、その真摯な謝罪と賠償を行うことである。徴用工問題は、決して新日鉄住金などの民間企業のみの問題ではない。侵略戦争への国家総動員という国策のもとで発生したものであり、日本政府こそがその解決のための主要な責任を負うべきである。徴用工裁判の被告に日本政府が含まれていないので、この点は裁判上の争点にはならなかったが、これが根幹的な問題であることは明らかである。
第二には、新日鉄住金などこの国策に積極的に加担し、徴用工問題の直接の加害者となった企業に対して、原告の請求に誠実に向き合い、謝罪と賠償を実施させることである。安倍政権は、いまこれとはまったく反する措置をとっている。大法院判決後、菅官房長官は同種の訴訟を抱える企業に日本政府の立場を説明し、賠償命令に応じないように指示した。このような対応は厳しく批判されねばならない。韓国では現在、他に14件の徴用工裁判が提訴されており、それに関係する日本企業は約70社にのぼる。また韓国政府管轄の組織である「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会」は、三菱重工や東芝など強制動員を行なった日本企業のうち現存する企業299社をリストアップしており、強制動員の被害者は約20万人を超えると言われている。このことは、植民地支配下での強制動員がどれほど広範で大規模なものであったかを示している。強制動員の被害者は高齢化しており、新日鉄住金に対する裁判でも原告4人のうち3人はすでに死亡している。残されている時間はわずかである。加害企業には、日本政府の方針がどうであれ、ただちに被害者への謝罪と救済措置をとる責任がある。そのことは、西松建設や三菱マテリアルによる強制連行問題での和解と補償が成立したように、日韓請求権協定のもとでも実施可能なことである。
第三には、日韓基本条約・請求権協定を見直し、日韓関係を植民地支配の不法性の認識とそれへの日本の国家としての謝罪という基礎の上に新たに据えなおすことにある。すでに述べてきたように、日韓基本条約・請求権協定においては、「韓国併合条約」が合法・有効なものであったのか、不法・無効なものであったのかという点で日韓両国の対立は解消されず、両国の国益調整・外交的妥協として処理された。河野外相は、「大法院判決は、日韓基本条約・請求権協定という日韓関係の法的基盤を揺るがすものだ」と非難してきたが、誤解を恐れずに言うならばまさにそうなのだ。大法院判決は、日韓基本条約・請求権協定の見直しを迫るものであり、日韓関係を植民地支配の不法性についての共通の認識とそれへの日本政府の公式の謝罪という基礎のうえに据えなおしていかねばならないことを示すものであった。日本政府は、よく「未来志向の日韓関係」などと言う。しかし、それは日本の戦争責任、植民地支配責任を逃れるための方便に過ぎない。過去に真摯に向きあい、それに責任を負うことの上にしか未来は存在しない。このことは日韓間の問題にとどまらず、いずれ日朝首脳会談が開催され、日朝国交正常化が課題となるならば、あらためて避けて通れない問題となる。
④戦争の危機のなかにあった東アジア情勢は大きく転換しはじめ、平和への流れが強まってきている。しかし、東アジアの平和とは、真実と正義の上にこそ築かれるものである。日本政府が植民地支配と侵略戦争への公式の謝罪と賠償を誠実に行うことこそ、東アジアの平和の基礎のひとつとされねばならない。植民地支配と侵略戦争への謝罪と賠償は、単に過去に責任を負うということではない。それは再び植民地支配や侵略戦争を行わないという未来への誓いでもあるのだ。したがって、植民地支配と侵略戦争への日本政府による謝罪と賠償を要求することは、自衛隊の海外派兵と憲法改悪、辺野古新基地建設をはじめとした基地の新設・強化を阻止することなどの反戦平和のための闘いとまさに一体のものなのである。
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